コラム 第10回 「表情の変化を楽しむ」

ウナボルサのスタッフによる、「革とのつき合い方」コラム全10回が新聞に掲載されたのでご紹介します。静岡新聞のほか、地方新聞(京都ほか10紙)にも掲載されました。

表情の変化を楽しんで。染みも傷も味わい

買ったばかりの革製品は、本当の魅力がまだ眠っている状態といえるかもしれません。革の種類によって程度は異なりますが、使い込むうちに色つやが増し、味わいが深くなる。この経年変化が、革製品の大きな魅力の一つです。

前にお買い上げいただいた方が来店された際、使い込まれたバッグや財布を見せてくれることがあります。そんなとき、成長した子どもと再会したような気分になります。「良い感じになってきたでしょ」。あるお客さまのバッグをお手入れするために手に取ると、革はほどよく柔らかくなっていて、心地よい質感。色合いも、よく触れる部分は手の脂が染み込んで深みが増していました。傷や染みさえも味わいに見え、愛用されていることが一目で伝わってきます。その際「使い始めよりも好きになった」と言われ、とてもしあわせな気持ちになりました。

職人たちが気持ちを込めて作った商品に持ち主の愛情が加わることで、世界に二つとない品物が出来上がる。このように革製品は、使っていくうちに仕上がっていくものだと思います。経年変化したその品は、新品の時よりも持ち主に似合ってくるから不思議です。そしてこの先、またどのように変化していくのか楽しみは尽きることはありません。

たまに「もったいない」とほとんど使わない人がいますが、それこそもったいない。「多少、傷がついてもかまわない」というぐらいの気持ちで使っていただければと思います。

できるだけ日常生活に革を溶け込ませて、身近な存在にしてあげてほしい。お手入れや修理をしながら長く使って、時間とともに変わっていく表情を楽しんでほしいと思います。

静岡新聞・夕刊 2017年3月17日掲載